Sugarless

<リョーマサイド>







菊丸英二先輩。この人は俺にとって未知の人だった。

勿論、アメリカにもこういう感じのノリの人は居たし、それ程嫌に思ったりしなかった。

それでもこの人程、行動の読めない人は居なかったし、俺に構ってくる人は居なかった。


この人はいっつも俺に声を掛けてくる。

特に何も用事が無くても、姿が見えると飛びつくように現れる。

最初はウザったくて仕方が無かったけど、今では安心出来る。

…存在を主張しない俺にとって、『越前 リョーマ』を見つけてくれる人は貴重だったから。

いつの間にか信用して、先輩なのに友人のように扱っていた。

そんな自分を不審に思いながらも、気持ちは正直だ。

あの人を見つけると、抱きつかれるのを待ってしまっているのだから。


いつも優しくしてくれる人だから、油断した。

こんな単純な罠に掛かるなんて、俺らしくない。

あの人が仕掛けたのは、簡単な罠。

言ってしまえば終わる、簡単な罠。

部活が終わると同時に囁かれた甘い言葉。

「おチビ、俺と付き合ってみない?」

他意が込められているとは思えない真剣な表情。

声はいつもと同じ優しい色調で、でも肩は震えていて……。

俺よりも背が高いし、声も低い。

年上だし、俺より余裕のある生き方をしてる。

そんな人が可愛く見えてしまった瞬間だった。

でも…そんな気持ちとは反対に、恋を理解出来ない自分が居る。

ハッキリ言って、俺は『ノーマル』だと思ってた。

…アメリカじゃそういう友人も居たし、偏見はない。

だけど…自分は違うと信じてた。

いや…信じてる。

でも…その時は深く考えないで答えてしまったんだ。

「いいっすよ。…俺でよければ。」

そう、何も考えずに。

その言葉がどういう結果を出すか。

その意味が俺を苦しめる事になるのかとか。

そんな事は考えなかった。

だから、この先の事なんて…理解出来ない。


ただ簡単な罠を張られて

その中に自分から入ってしまった俺。

この先俺がどう足掻こうと

先輩の知った事ではないという事に

未だ気付いてはいなかったのだ。

そんな大事な事から

目を離していたのだ。

臆病な自分が

心の底で

俺自身を嘲笑っている……。